RED HOSTILITY 蔵野杖人さん／シナリオの書き方・考え方

作者様：ホームページ、Twitter
作品：Ｊ しかばねジャックと氷の心臓
シナリオの書き方：前編、後編

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●物語と心と経験

では、書いて書いて書きまくるだけで上手くなるのか。面白い話が書けるようになるのか。人を惹きつける物語を書けるようになるのか。

これは、ノーです。
私はいつも思うのです。
殴られたことのない人間が、殴られた痛みを本当の意味で理解することはできない。
そして、殴る痛みを本当の意味で想像することもできない。
歴史を、知識を学ぶことは大事です。資料集めは確かにやらなければいけないことです。でも、それなら、人の感情の資料はどこから集めればいいのでしょうか？


　　答えは、あなたの頭の中です。


知識から類推するのが賢者で、愚者は経験から知るだなんて言いますが、ぶっちゃけ人の心に関してこの世の人間は大体みんな愚者です。人を傷つけたときの後悔や、飼いならされた時の恭順や、何かを失った時の憤怒を、知識だけから自分のものにするなんて不可能です。だから、あなたが真実「いいものを書きたい」と思うのなら、楽しいことも、嫌なことも、すべて味わってみるべきです。味わうというのは、自分の身に起こった出来事を咀嚼して理解するということです。直視するということです。反芻するということです。嫌なことまで、全部。何度も何度も、どれだけつらくても、苦しくても、忘れたくても、向き合うべきです。もっとも、本当につらくて苦しい出来事というのは、そんなことしなくても忘れられませんし、何度も何度も思い出すことになるんですがね。

同時に、自分の経験だけでは、やはり補えないところというものはあります。自分がいくら泣き叫んでのたうちながら這いつくばって地獄を見据えても、それは人間の一側面でしかありません。では、どうするか。簡単です。他人を観察するのです。他人を、そして他人の書いた物語を。

イラストを描いている方ならご理解いただけると思うのですが、ものを描くために必要なのは、多面的な観察、つまり形質、形容に対する理解です。物語を書くためにも、同じことが言えます。見る、ではなく、観察をしなければならないのです。

本当は、自分も他人も、描画対象として一歩引き、共感する自分とは別に冷笑しながら観察・分析する自分を作れれば一番いいのですが、正直できる人は稀だと思いますし、これをやると結構本気で心の病気になるので、とりあえず共感だけしてみましょう。深く深く、物事の根っこまでつまびらかにして、咀嚼し、自分のものにしてみましょう。きっと得るものがあるはずです。

先に話した共感、あれの大元は、「真実味」です。説得力です。質量です。絶望というものを、どれほど知識だけで書き連ねても、本当に絶望したことがある人間の心には届きません。殴られた痛みを、知識で描写したって、実際に痛みを知る人間からしたらお笑い種です。それどころか、ひどい時は怒りを買います。人間が物語を作るとき、自分以外の何かをメインの材料にして作ることは殆どできないからです。どれだけ他人をモデルにしたとしても、作者の主観は絶対に入ります。そうである以上、脳味噌に深く刻まれていないものを書こうとしても、それは、ただの嘘っぱちなのです。

我々は、根も葉もないただの嘘ではなく、真実をデコレートした結果としての嘘を書かなくてはなりません。「ただの嘘」を書いてはいけないのです。嘘は他人を怒らせるだけなのですから。

あなたの作った物語。
その物語こそが、あなたの血肉で、すべてです。
そうである以上、血を通わせた、一つの生き物にしなければ。
知識的に正しいだけの物語なんてコンピューターにでも書かせておけばいいのです。我々は人間の作家です。時には知識的な正しさなんて放り捨てて、人の心を書かねばならないのです。

だからこそ、経験をすべきです。他人の物語を知るのも良いでしょう。そして、誰よりいっそう深くその物語に共感し、自分のものにしてしまいましょう。より良い物語のために。

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●声に出して読む

あなたが文章を読んだり書いたりするとき、読みにくいなあ！と思う文章はありませんか？　それは、声に出して読むと言う行為をしていないからです。自分で書いた文章を、声に出して読んでみる練習を、私はおすすめします。そうしてみると、わかりにくい描写や読みにくい描写がどこにあるのか、すぐにわかります。句読点がどこの文節に足りないのかもわかります。

文章は、ただの文字の羅列ではありません。そこには音があり、リズムがあるのです。同じ音の繰り返しは強調的な印象を与えますし、ひらがなカタカナで与える印象も違います。なんか聞くところによると擬態語擬音語でひらがなカタカナ区別するべきとかあるらしいんですけれど、私は文字から与える印象を考えるので、あんまりそのあたりは気にしていないです。どうでもいいなあ?ひらがなで書いた方がここなら絶対いいし?と言った感じです。ザ・感覚！　参考にならないこと塵のごとし！

漢字変換の統一とかもあんまり気にしていません。「といった?」と「と言った?」とかが結構平気で混ざっていたりします。賞に出した時もそのあたり適当でしたが、普通に一次は通過しました。二つの賞で両方一次通ったので、本当に大して気にされていないんだと思います。実際、私もそんなのどうでもいいと思いますし。小説読んでる時にそんなの気にしたことないです。面白ければ夢中になって読みます。それだけです。

なので、そういう表面的な技法ではなく、「読みやすさ」とか、「伝える力」について鍛えるべきかな、と私は考えています。少なくとも、そっちのほうが生産的かなと。

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●最後に

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。くっだらねー、こいつ馬鹿だなーと笑い飛ばしていただけましたら幸いです。私は多分本当に異端なシナリオライターなので、参考にしないでください。普通のシナリオが書きたいなら、間違いなく、他の方が書いた記事の方が参考になります。私は本当に感覚というものだけで物を書いてきた異端者ですから、参考にすると、私と同じ修羅の道です。早死にする道です。そして、敵を作りまくる道です。これを書いた時点で既に敵を作っていると思っています。これでまた夜道で背後から刺される確率が上がったなあ、なんて思いながら書いています。

それでもあなたが私を参考にするのなら、ようこそ修羅の道へ。自分を痛めつけてわあわあ子供みたいに泣きながらなお作品のために這いずるあなたはきっと何かを掴めるでしょう。

あなたの魂が叫ぶままに、書けばいいのです。

それでは、お付き合いいただき誠にありがとうございました。


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※オマケ



マルチバッドエンドサスペンスADV
「Ｊ しかばねジャックと氷の心臓」