granat 館山緑さんのコラム 01

作者様：ホームページ、ホームページ（同人）、Twitter
作品：薄明のアジール Dusk Asylum、すり替えられた果実の破片、卒業式の後君は（インタビュー付き）
granat 館山緑さんのコラム：01、02、03、04、05、06

●ご紹介

ゲームシナリオライター、小説家です。アホほど分岐の多い、陰気なテキスト系ゲームを制作しています。陰気、分岐、青春を目指しています。

●01_分岐の人、同人ゲームに分岐する

アホほど分岐の多いゲームを作りたい。
しかも自分の好きなように分岐しまくるゲーム。ワタシが同人ゲームを作り始めた理由は、他の人とは少しだけ毛色が違ったものかも知れません。
そしてそこに対する疑問も、他のサークルさんとは少し違う形のものが向けられます。

「商業でゲームシナリオを何作か担当している人間が同人ゲームを作るのって、ちょっと卑怯じゃない？」

でも、むしろ「プロだからこそ同人ゲームを作りたいんだって！」とシャウトしたい商業シナリオライターさんは結構いらっしゃるのではないかと思います。
ゲームシナリオライターになっている人のほとんどはゲーム、特にストーリー要素の強いゲームが大好きなんじゃないかと思います。（嫌いだったり、別に関心ないやという人もおいでかも知れませんが、ワタシの知人のライターさんにはそういうタイプの方は皆無でした）

「でも、プロなんだよね？　何で商業作品で自分のやりたいものをやらないの？」
ゲームを制作しない人から、こういう反応を受けることがあります。

商業作品でその作品が「どんなゲームか」を決めるのは、ライター一人ではありません。むしろ外注ライターとして呼んでいただける時のほとんどは、その内容部分は企画、ディレクターが責任を持つ部分です。そうでないと複数ライターがいる時にどの程度整合性を取っていくのかなど、いろんな問題が出てきてしまいます。
ゲームの中身を決め、上がってきた原稿に、こうあるべき到達点に向かって修正するようにリテイクをお願いしたり、ＯＫを出すことができるのは、外注ライターではない人間です。

練られて完成されていくゲームに関わっていく合間に、ゲームの好きなライターの一部は、よそのゲームに呼ばれて執筆しているうちに「他の人じゃなくて、自分が全部決めたゲームを作ってみたいな」と思ったりします。
「よし、企画や世界観構築も自分でやれるようになろう」と商業作品にそのエネルギーを向ける人もいれば、「もっとコンパクトに、自分のやりたいことだけ突っ込んだゲームを個人的に作ろう」という人もいます。ワタシは典型的な後者です。

「企画や世界観構築を自分でやって商業で頑張れば？　商業で『アホほど分岐の多いゲーム』を作ればいいのに」
もちろんこういう反応はあると思います。ですが、そこでワタシの『個人的な趣味』がハードルとして立ちふさがってくるのです。

ワタシは『アホほど分岐の多いゲーム』を『自分の見たい世界観、キャラクター』で作りたいと思っていました。

ですが、分岐が多いゲームは喜ばれません。ごく一部の人しか食い付きません。プレイヤーさんも「難易度が上がってプレイがめんどくさい」「とっつきにくい」という人も多いですが、それ以上に商業で立ちふさがる大きすぎる壁があるのです。

「そんなデバッグの面倒なゲーム、うちでは無理です……」

昨今ゲーム業界もいろいろ不景気です。ただテキストを読み進めていくだけのゲームに、猛烈なデバッグの手間をかける企画が通る余地はありません。

よほどすごいアドバンテージがない限り、アホほど分岐の多いゲームは、むしろ商業でこそ通らない企画なのです。

商業『だからこそ』通らない企画。でも、作りたい。
だからこそ同人ゲームです。
没を出すのはディレクターを兼任している自分。制作予算を出すのも自分なので、スポンサーの意向も自分。ついでに言えば「こういうのがプレイしたい」というプレイヤー第一号も自分なのですから、こんなにありがたい案件はありません。
少なくとも「商業で通すのに果てしない困難がある、あまりニーズがない作品をリリースしても売上や評判以外の責任を取らされない」
ある意味とても気楽です。

そうしてgranatの第一作『薄明のアジール』の制作が始まりました。（現在サポート終了。リメイク版『薄明のアジール Dusk Asylum』がリリースされています）

（つづく）

※オマケ