久住女中本舗「道玄斎」さんに、コラム記事を書いて頂きました(*ﾟ∀ﾟ)=3

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●第十ニ回「ライターだって音にこだわる」

今回はちょっと「音」について話してみようかな？
え？　「音の話はこの前やっただろ」って？　まぁ、確かにそうなんだけど、あれは基礎編みたいなもんかな。

今回は、まさにゲーム制作の現場で起こった話をしようと思ってるんだ。なにしろ、ノベルゲームは、「サウンドノベル」とも呼んだりするくらいだし、「音」というのは重要な要素なんだよ。それに、音屋さんや、声優さんだけじゃなくて、ライターだって音について、最低限の知識や環境がないとなにかとおかしなことが起きるんだ。

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■ゲーム作りのおてつだい

ある同人ゲームサークルが、いわゆる「シェアゲー」で一旗あげようとしていたんだ。
ジャンルはずばり「エロ」。サクッとプレイ出来て、比較的安価な価格で広くそのサークルを知ってもらおうと頑張っていたんだな。

ゲームの内容といえば、


　　草木も眠る丑三つ時。
　　今日も今日とて、兄貴は自室で夜のソロ活動にいそしんでいる。

　　しかし、そんな兄貴の頑張りをこっそり見つめる一対の目があった。
　　そう、妹である。

　　いつしか妹は、兄に情欲を覚え……そして二人は禁断の関係に……。


まぁ、こんな感じのわりとよくある、兄妹もののエロゲーだったんだよ。
とはいえ、そのサークルにとってはシェアの第一弾作品。制作には気合いが入っていたね。話を聞いてみると、BGMも外注したし、ボイスこそないものの、“えっちな音の効果音”は、効果音販売サイトで買い集めたらしいんだ……。

ストーリー的な展開、というか広がりはあまりないから、トントン拍子に制作は進んでいき、いよいよデバッグの段階に入って、そこで私に声がかかったというわけ。


「道玄斎さん、よかったらチェックしてもらえませんか？　今回はシェアとしての処女作ですからね、こちらも気合いがはいってるんですよ」

「うーん……俺はフリーのノベルゲームばっかりだから、あんまり参考になること言えないと思うんだけどなぁ」

「そう言わずに、ぜひ協力を！」

「まぁ……そこまでいうなら……」

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■それはノイズ？

というわけで、デバッグを引き受けることにしたんだけど、さっそく気になる点が出てきたんだよ。しかも、そうとうヤバい問題だったんだ。もちろん、音関係で、だよ。


「やぁ、さっそく気になるとこが出てきたんだけど」

「え！？　どこです？」

「うん、えっちシーン全般なんだけど、効果音がね……」

「あー……なんか少しノイズ？　というか、こもった音がするんでしょう？」

「そういう風に聞こえてるのか……」

「？　どういうことです？」


ほかのデバッガーは気づかなかったらしいんだけど、どうやら、私が気になった箇所は、彼には「ノイズ」として受け止められているようなんだ。ことはもう少し厄介なものをふくんでいるんだけどもね。


「今、コンピューターにはスピーカーとかつけてる？　もちろん、ヘッドフォンでもいいんだけど」

「買ったときについてきた小さなスピーカーはついてますよ。ヘッドフォンは持ってないなぁ」

「ちょっとボリュームあげてえっちシーンをチェックしてみてよ」

「えー！　ここアパートだから、大きな音出せないんですよ！」


仕方がないから、私は自分のモニターヘッドフォンをもって、彼をたずねることにしたんだ。論より証拠で、実際に聞いてもらったほうがいいからね。
そうそう、こういう「音の確認」に使うのは、普通のヘッドフォンじゃなくて、「モニターヘッドフォン」というものを使うんだ。

リスニング用のヘッドフォンは、モデルによって音に「色づけ」があるんだよ。たとえば、「気持ちのよい低音が味わえるモデル」とか、「高音を華やかに鳴らしてくれるモデル」とかね。DJ用のモデルなんて、低音が凄いんだ！

けれども、それじゃ「音の確認」に向かないのは分かるよね？　モニターヘッドフォンは、そうした色づけが少なくフラットに鳴ってくれるものなんだ。これは音屋さんはもちろん、ボイス活動をしている人もみんな持っているよ。


「じゃあ、さっそく、このヘッドフォンを使って聴いてもらおうか」

「その前に！　なんか他で気になったとこ、ありました？」

「特に誤字脱字もないし……そんなに気にならなかったなぁ。あえて言うなら、兄妹でのエロって気持ち悪くないかい？」

「そこはファンタジーですよ！」

「あっという間に兄妹が、そういう関係になるというのも……」

「そこもファンタジーです！」

「妊娠しないというのも……」

「ファンタジー！」

「……まぁ、いいや。とにかく聞いてみてくれよ」


　とにもかくにも、彼にモニターヘッドフォンをつけてもらって、問題のシーンを聞いてもらったんだ。


「……！」

「どうだい？　わかっただろう？」

「テ、テレビの音が鳴ってる！」


そうなんだ。
彼が感じた「ノイズ」の正体。それは「ぐちゅっぐちゅっ」ってな効果音の後ろで鳴っていたテレビの音だったんだ！

おそらく、その効果音の制作者は音響のしろうとだったんじゃないかな。
私だって、「録音する時はノイズがはいらないように静かな環境で」というのは分かるもの。けど、その素材制作者はなぜか、後ろでテレビが鳴っている環境で、その効果音を録音したんだよねぇ。


「お金出して買ったのに……」

「こういう事態をふせぐために、サンプルをちゃんとした環境で聴くことが必要なんだよ」

「僕もモニターヘッドフォン買わないといけませんね……」


モニターヘッドフォンっていっても、値段はピンキリだよ。
信頼できるメーカーのものだったら、５０００円?くらいのモデルでも十分だと思うな。よく言われているように「ソニーのMDR-CD900STじゃなきゃだめ！」ってことはないよ。もちろん、音屋の活動も考えている、ボイス活動もしたい、ということだったら、少しいいモデルを選択したほうがいいけどね。

ちなみに、私は、オーディオテクニカのモニターヘッドフォンが好きだよ。安心の国内メーカーのものだしね。今自分がメインで使っているのはAKGのものなんだけど、少し装着感が悪い気がしているから、これがダメになったら、またオーディオテクニカのものを買おうと思っているんだ。


「そうか、５０００円くらいから買えるのか。今度の休みにさっそく買ってこようかな」

「こういう風にノイズや雑音の正体がはっきり分かるからね。多分、これはライターでも必要なもんだと俺は思ってるよ……って、あれ？　あぁ！」

「どうしました？」

「ここ、ここ！　聴いてみて！　ここも凄まじいぞ……！」

「うわっ！　こ、これはひどい……！」


私が発見した新しいノイズは、いわゆる“ちゅぱ音”だったんだけどもね、モニターヘッドフォンで聴いてみると、あきらかにオッサンの「むふぅ?！　むふぅ?！」って鼻息が入ってたんだ……。


「なぁ……このちゅぱ音……」

「ええ……ちゅぱ音は、女性声優さんが頑張って演技している……それもファンタジーだったんだなぁ……！」


今日のお話はこれでおしまいだよ。
実際、商業の作品なんかは、ちゃんと声優さんがちゅぱ音も演技しているんだけども、ネットで売ってる素材集は、ほんとうに玉石混淆だから、みんなも気をつけてね。

（つづく）