道玄斎さんのコラム 21:道玄斎のノベルゲーム漫遊記
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●第二十一回「中華ファンタジーの可能性を探る」
さて、今回は「中華風」のノベルゲームの話でもしてみようかな。
というのも、最近『聊斎志異』(りょうさいしい)という中国の本を読んだからなんだ。
ノベルゲームのレビューにどうしても必要なんだ! と、いえないわけじゃないんだけども、私は本を読むのが好きでねぇ、洋の東西を問わず、あれこれ本を仕入れてきては読んでいるんだよ。
で、当然、私にも「好みのジャンル」っていうのがあるんだよね。
私のブログを読んでくれている人なら、「あっ、こいつ確か古文とか好きだったな……」って思い出してもらえると思うんだけど、わりと「古いもの」が好きなのは間違いないね。
あとは「怖い話」、つまり怪談や都市伝説、魔女や黒魔術といった怪しげなものも大好物なんだ。
そうそう、肝心の『聊斎志異』なんだけど、清の時代の中国で書かれたものだから、すごく古い、とまではいえないんだけど、少なくとも現代のものではないんだ。
さらに、清より1つ前の時代、明代の怪異の記事が多いわけで、こりゃ私の好みにかなり近いぞ。
というわけで、読み始めたんだけど、こいつがなかなか面白くてねぇ。
で、よくよく考えてみれば、「中華風ファンタジー」のノベルゲームっていうのも、そこまで数は多くないんだけど、確実に作られつづけているんだよ。
だったら、『聊斎志異』をからめることで、コラムのネタになるじゃないか!
■中華乙女ゲーの王道は?
「中華ファンタジーは、やはり女性が多く作ってるイメージがありますね」
と、割り込んできたのはPさん。
彼女も、女性向けのゲーム制作者さんなんだ。
「たしかにね。一昔前の『中華ファンタジー作品』なんていうと、けっこう紋切り型の乙女ゲーの延長だったもんね」
「まぁまぁ。パターン化されたものも、それはそれでいいものなんですよ。なんていうかホッとできるというか……」
「それはわかるよ。俺も『ハイスクール恋愛ノベル』について、ちょっと書いたことがあったけど、あれも、たまに無性にプレイしたくなるんだよねぇ」
「連続でそればっかりプレイする、となるとあきちゃいますけど、たまにプレイすると意外と楽しめちゃうんですよね」
定番とかオーソドックス、なんていわれている物語も、やっぱり「面白さの核」みたいなものはちゃんと持っているんだよ。それに、みんながなんだかんだいって好きなものだから、それが「定番」になっているわけだしね。
それはそうと、紋切り型の中華風乙女ゲーってどんなのだかわかるかい?
そうだなぁ……
主人公(女の子ね)は、天涯孤独の身。その日の生活にも事欠くありさまだった。
しかし、ひょんなことから、宮中になかばさらわれるような形で連れてこられてしま
う。
宮中の一室で閉じこめられているうちに、鬱々とした気持ちがつのってくる。しかし、
夜だけ姿をあらわし、気さくに声をかけてくれる謎の男性や、ぶっきらぼうではある
が、気持ちが優しい武官など、実は自分を気にしてくれる人は多く、そのうちの1人
にいつしか気持ちが傾いていく……。
そんなある日、なんと、自分が今でこそ没落してはいるが、実は由緒正しい家柄の娘
であると告げられ、急遽、皇帝との結婚の話が持ち上がる。
あまりに急な話でもあるし、いきなり皇帝との結婚といわれてもピンとこない。
が、しかし、皇帝と対面してびっくり。
なんと、皇帝は夜ごとに自分を訪れてきてくれるあの男性だったのだ……!
こんなヤツだよ。
もちろん、作品によって細部は異なるし、必ずしもこのパターンじゃないんだけど、基本はこんな感じかな。
「だいたいあってる……」
「でしょ? ゲームじゃないんだけど、『ティアラ文庫』 の作品なんかも、こういったパターンが多かったね」
「(なんで、女性向けのちょっとエッチな文庫の内容知ってるのかなぁ、この人……)」
「ん? なんかいったかい?」
「え? いえいえ、なんでもないです!」
■志怪? 伝奇?
ともあれ、こういうパターンの中華ファンタジー作品って、けっこうあるんだけど、最近はその傾向も変わってきてるんだよ。
というのも、「道士」をフィーチャーした作品が増えてきているんだ。
道士っていうのは、いうまでもなく「道教」のお坊さんだから、道教、その中でも特に仙人や仙術、あるいはキョンシーが作品に出てくることになるんだ。
そういえば、昔、『霊幻道士』っていう映画が流行って、作中のキョンシーの動きを、みんなマネしたりしてたなぁ……。
近年、目についた、こうした新しい傾向をもった中華風の作品には、『キョンシー×タオシー』、『黄昏の最果てに』 なんかがあるよ。
「こういう作品を作ろうとした場合、資料やネタ集めが大変そうですね……」
「まぁね。最低限度の『中華らしさ』とか、『道教っぽさ』がないと、わざわざ中華ファンタジーにする意味がなくなっちゃうしね」
本当に道士ものを作りたいなら、『道教百話』、『道教の神々』なんて本はかなり役立つし、面白いよ。さらに文庫だから手に入れやすいんだ。
もちろん、こうした解説書ではなく、古代中国の怪談集みたいのを読むのもいいよ。ま、だいたい「○○という仙人がいて、△△ということをしました」とか、「○○という地域では、こんな不思議な話がありました」みたいな、いわばエピソード集になっているんだけどもね。最初に話した『聊斎志異』も同じだよ。
この手の本はだいたい「説話」というジャンルにいれることが出来るんだけど、実はもっと細かくわけられるんだ。
1つは「志怪」、もう1つはノベルゲームのジャンルでもおなじみの「伝奇」だよ。
「え? 伝奇って中国発祥だったんですか?」
「うん、ジャンル名なんだよね。もっとも、今の日本では『異能力バトル』みたいなものを伝奇って呼ぶから、本来の意味からは少しかけ離れてしまっているんだ」
「なるほど……。あっ、じゃあ、その志怪と伝奇の違いってなんですか?」
うーん、これはけっこうな難問だぞ。
簡単にいうと、「志怪は、エピソードの概略を書いたもの」、「伝奇は、エピソードを細かに語っていく小説に近いスタイル」ってとこかな。もちろん、志怪が発展して伝奇になっていったんだけどもね。
さっき書いた、「○○という仙人がいて、△△ということをしました」っていうのは志怪だね。一方、伝奇のほうは、もっと肉づけがあって、ちゃんとしたストーリーになっているんだよ。
「なんか、ピンときませんね」
「そうだなぁ……。じゃあ、ネタの大王、T君のエピソードを使うか」
「あっ、あの伝説の……?」
「うん、まず、志怪スタイルで話すと、こういう風になるよ。
あくどい男として有名なTという男がいた。
自身を「社長」といつわり、偽の名刺をつくり、人を騙していた。それを知った人々
は、彼を詐欺師だとののしった。
ちょっと短めだけど、まぁ、こんな感じかな」
「ふむふむ。じゃあ、伝奇だと?」
「伝奇だと、こうだよ。
Tという、あくどい男がいて、人を騙すことに非常に長けていた。
彼は、賞賛欲求が非常に強かったため、自分を「社長」といつわり、人々から様々な
利益や、賞讃を得ていた。
彼の手口は、それなりにこっており、「代表取締役」と書いた名刺を持って、それを
人々に渡すことで、自分のウソを固めようとしていた。
あるとき、めざといDという男が、彼から名刺をもらったが、すぐに不審な点に気が
ついた。
彼の名刺には、会社のウェブサイトのURLが記載されていたのだが、そこに違和感
をおぼえたのだ。つまり「hogehoge.co.jp」と記載されるべきところが、よくよく目
をこらして見てみると、「hogehoge_co.jp」となっていた。
つまり、彼は法人としてのドメインは取得しておらず、社長というのもウソであるこ
とはもはや明白だった。
この話が広まるにつれ、Tは誰からも相手にされなくなり、詐欺師と呼ばれ、かえっ
て評判を落としたのであった。
まぁ、こんな感じかなぁ」
「わかりやすい! それにしても、T君ってホント救いようがない人ですね……」
■『聊斎志異』はどっち?
「まぁ、志怪にも、もうちょい長いものもあるんだけど、だいたいの雰囲気ってことで」
「そういえば、さっきからちょくちょく出てる『聊斎志異』は志怪ですか? それとも伝奇?」
「これまた難問だな。実は『聊斎志異』には、どっちのパターンのお話も入っているんだ。だから、どっちのジャンルとも言いにくい部分があるね」
「けど、中華ファンタジーでのネタには使えるんですよね?」
「それはもちろん。さっきも言ったけど、道教的な話は少なめだね。けど、幽霊は出てくるし、狐が人を化かしたり、という話は本当に大量に入ってるんだよ」
「なんか使えそうな話、教えてくださいよー!」
そうだねぇ。
ちょっと面白い話があったから、軽く紹介しておこうかな。
あるところに男が住んでいたんだけど、ひょんなことから若くて綺麗な女の子と知り合うんだ。で、『聊斎志異』の話のパターンでもあるんだけど、すぐにエッチしちゃうんだよ。
そうこうするうちに、男は、また妖艶なお姉さんと知り合って、やっぱりエッチしちゃうってわけ。こりゃ、男にとっては天国だよ。「エッチ三昧じゃー!」というわけで、淫らな日々を送っていたんだけど、日増しに男はやせていき、ガリガリになってしまったんだ。
個人的には「それ、精力が失われてるからじゃ……」って気がしないでもないんだけど、そんな男を見て、妖艶なお姉さんが「あなたがエッチしてるもう一人の女、あれは幽霊ですよ。だからやせてしまったのです」なんていうもんだから、こりゃびっくり。
さっそく、もう一人の女を問いつめると、「何を言ってるのよ、あっちこそ狐が人に化けていて、あなたの精気を吸ってるのよ!」ってな返答が返ってきた。
はたして、どっちの言うことが真実なのか……。
ってなお話だよ。
面白そうでしょ? 『聊斎志異』を読んでいると、とにかくやたらと、狐が女に化けて主人公とデキてしまう話が出てくるんだ。二人の間に出来る子供は、異能を持っていることもあるよ。
これは中国の話の1つの代表的なパターンなんだろうね。
より専門的に言うなら、これは「異類婚姻譚」って話型だよ。話型の話は以前したよね?
こうした、狐との婚姻譚が中国で熟成して、それが日本にも入ってきたんだよ。
さっき伝奇の話にもチラッとふれたけど、我が国の伝奇でお馴染み、安倍晴明のお母さん葛葉姫もやっぱり狐だから、そういう大陸からの影響があるんだろうね。
おっと、ノベルゲームだって、その手の作品はあるぞ。
「花を吐く抄女」 の作っているゲームは、だいたい、狐の妖艶なお姉さんが出てくるんだ。で、当然、エッチシーンもあるんだよ……。
これも、原点を探っていくと、中国の志怪や伝奇の流れをくんでいる、と言えるよね。
■中華ファンタジーの広がり
「というわけで、中国の志怪や伝奇を調べていけば、結構使えるネタは手に入るんだ」
「なるほど、これはさっそく読んでみなきゃ!」
「まぁ、面白いよ」
「なんですか、その『まぁ』っていうのは」
「面白いことは面白いんだけども、ちょいとワンパターンだから飽きちゃうかもしれないんだよね」
「狐が化けた女性と結婚するんですよね?」
「『聊斎志異』では、そのパターンが多いんだけど、仙人や仙術が出てくる志怪にもある程度のパターンがあるんだよ」
「と、いいますと?」
「だいたい、町で座り込んで商売している薬屋さんが仙人なんだ」
「ほかには?」
「あと、たいていの場合、主人公は仙人を目指すんだけど失敗するね。なれたとしてもランクの低い仙人どまりだなぁ」
「え? 仙人にもランクがあるんですか?」
ワンパターンであきちゃうかも、といっても、こうやって「実は仙人にもランクがある」とか、その他ちょっとしたところで使える中華風のフレーバーは、ふんだんに入ってるから、この手の本は読んでみる価値はあるんだよ。
「俗世界から離れて、俺も仙人を目指す!」ってタイプの人も、読んでみるといいんじゃないかな?
「仙人かぁ……わたしも、仙人になれるかなぁ」
「あっ、むりむり。女性の仙人もいないわけじゃないんだけど、西王母とか、大物ばっかりだから、新規参入は出来そうにないよ」
「残念……」
「それに、仙人は欲を捨てないといけないんだ。大金を得るとか、エッチなんてもってのほかなんだぜ。清らか……清貧……そういうものが大事なんだよ」
「なんだ、じゃあ、さっき喜んでエッチの話をしていた、道玄斎さんも仙人にはなれませんね!」
というわけで、今回のお話もおわりだよ。
中華ファンタジー、それも最近流行りだした道士の世界について知りたいなら、『抱朴子』『列仙伝』『捜神記』『神仙伝』なんて書物にあたってみるといいよ。
化け物を調べたいなら『山海経』(せんがいきょう、って読むよ)がそのカタログみたいな感じだから、それもお勧め。
※今日は画像をつけさせてもらったんだけど、これは、志怪の代表作『捜神記』の最初のページなんだ。最初は「神農」って神様についての記事なんだけど、註をのぞけば、たったの2行だってことがわかるよね。
読み下し文を作ってもいいんだけど、興味ない人も多いだろうから、「神農」の部分だけ、サクッと訳しておこうか。あっ、もちろんこんな漢文で書かれたものをみんなはチョイスする必要はないよ!
「神農は、赤いムチを使って色々な草をぶつと、その草の性質を見分けることが出来た。
そうした知識をつかって、種をまいた。だから、みな、彼のことを神農と呼ぶようになった」
と、まぁ、こんなとこかな。
志怪らしさ、味わってみてね。
(つづく)
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