道玄斎さんのコラム 32:道玄斎のノベルゲーム漫遊記
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●第三十ニ回「日本的世界を考える」
気がつけばこのコラムももう、三十二回目だよ。
よくよくこの連載を振り返ってみれば、日本国内のノベルゲームの話がほとんどだったよね。
最近では、海外でもRen'Pyなんて向こう発のゲームエンジンによって、ノベルゲームが少しづつ浸透してきているんだよ。
「ゲーム」としてのシェアは全然たいしたことがないんだけど、それでも、愛好家は増えつつある。だから、みんなも、自作品を英語で移植してしまえば、それだけで注目してもらえる可能性が高いんだ。
Steamというプラットフォームも熟してきているし、今が本当にねらい目かもしれないよ!
■足元を固めよう
……と、海外のノベルゲーム事情に目を向けていけばキリがないんだ。
そして、悲しいことに、私は英語ならちょっぴりわかるんだけど、他の国の言葉はからっきしだから、英語圏以外の情報は入手できないんだ。
おっと、フランス語だったら少しはわかるけど、実用レベルじゃないよなぁ……。
まぁ、海外発のノベルゲームの話題は、また今度にとっておいて、今日はむしろ「日本」について考えてみようよ。
まずは足元を固めよう、ってとこかな。
■ゲームに出てくる「日本」の姿
ということで、ノベルゲームに出てくる「日本」あるいは「日本的世界」について考えてみよう。
まず、これは2種類に大別できるんだ。
つまり、「現代日本」(かそれに近いもの)、「過去の日本」の2種類だよ。
前者はいいよね?
私たちが普段ゲームを作ったり、プレイしたりするとき、多くの作品が「現代日本」を舞台にしているんだ。
話題を呼んだ海外製のノベルゲーム『かたわ少女』でも、舞台は現代日本だったんだよ。
考えてみればこれは面白いよね。わざわざ「現代日本のどこか」にしないで、なじみがあるであろう、カリフォルニアとかにすればいいのにね。
登場人物だって、基本日本名がついているわけで、なんとなく不思議だなぁって思っていたんだけど、それこそまさに「ノベルゲーム(含エロゲー)が日本発祥である」ということを反映している設定なんじゃないかな。
そうだなぁ、例えば、私たちが「剣と魔法の世界」を舞台にしたノベルゲームを作るとしよう。
すると、舞台はほぼ自動的に「西洋」になるよね? それと同じだと考えるとずいぶんすっきりするんだ。
さて、話を戻して。
問題は「過去の日本」のほうなんだよね。
これは、日本発の作品で使われることが多い設定なんだけど(まぁ、当たり前か)、この場合、ほとんどが「江戸時代」あたりを想定したものになっちゃうんだよ。
「そうですね……女性向けのファンタジー作品でも、そういうのありますよ」
「おっと、Yさんいたのかい?」
「女性向け作品が絡みそうな話題だなーって思って待機してたんです」
「そうか……まぁ、よろしく頼むよ」
「はいはい。で、女性向けのファンタジーでは、西洋世界が舞台なのに、日本的なエリアがあったりするんですよ」
「そうなんだよね。例えば『倭国』なんて名前がついてたりね」
「それ、定番ですよねぇ」
「で、そのエリアは、やっぱり江戸時代のテイストなんだよね」
結局、「倭国」でもなんでもいいんだけど、そういう時の「日本っぽいエリア」って、侍に相当するような剣士の役職があって、忍者みたいなヤツが必ずいるんだよ。
つまり、江戸時代あたりを想定しているってことなんだけど、これも考えてみれば不思議じゃないかい?
いつもいつも、「昔の日本」っていうと無条件的に江戸時代になってしまっていて、間違っても鎌倉時代の設定なんてでてこないんだ。
いや、まてよ……。
以前、平安貴公子との恋愛作品が、フリーのノベルでそれなりにリリースされていた時期もあったっけ。
■王朝風の世界
「それはもちろん、乙女ゲーですよね?」
「ああ、そうだよ。主人公はどっかの貴族のお姫さまだったりするんだけど、彼女に熱烈にアプローチしてくる貴公子がいる、ってのが基本的な設定かな」
「そういえば、『源氏物語』の各巻をノベルゲームにする、って企画もあったような……」
「ああ、俺もみたことあるな。けど、全部の巻をノベルゲームにするって相当むずかしいぜ!」
「なんでです? あっ、量が多いからですか?」
「うん、それが一点だね。『源氏物語』って全部で54帖あるんだよ。つまりかなりの大作なんだ。けど、問題はほかにもあって、例えば『超短い巻』なんかもあるし、『タイトルだけの巻」なんかもあるんだ」
「タイトルだけの巻?」
「『雲隠』って巻なんだけどもね、これは中身がないんだよ。タイトルしかない幻の巻なんだ。そんなのをどうやって一本の作品にするんだい?」
つまり、こういうわけなんだ。
光源氏ってヤツが『源氏物語』の主人公的存在だってのは知ってるよね?
いわばスーパースターってやつだよ。
で、「雲隠」はちょうど、光源氏の最晩年から死に至るまでに相当する巻なんだよ。
いろんな説があるんだけど、そんなスーパースターの死を描くのは忍びない、ってことで、あえて中身のない巻を作ったってことみたいなんだ。
「実はちゃんと彼の死を描くような巻もあった」って説もあるんだけど、こちらはあまり支持されてないようだね。
「ははぁ、なるほど……あえて光源氏の死を描かないんですね」
「これは、かなりうまい手だよね。『雲隠』という巻名が、光が雲によって隠れてしまった、つまり、光源氏が死んでしまったということを暗示しているわけで、その次の巻、つまり『匂宮』の冒頭では、『光かくれ給ひにしのち?』と、それを補強する語りだしになっているんだ」
「こってますねぇ!」
「実際、『雲隠』の巻があったのかどうかわからないんだけど、これはこっている、といってもいいよね」
実は、現存している『源氏物語』の最後の巻、「夢浮橋」はちょいと不満を感じるラストなんだ。
いままで54巻も続いてきたのに、ストーリー的になにか決着がつくわけでもなく、どこか宙ぶらりんのまま、終わってしまうんだよ。
となると、「じゃあ、自分たちで書いちゃおうぜ!」って考える人がいても不思議はないよね。今でいう同人誌ってとこかな。そこで作られたのが『雲隠六帖』って作品で、これは、もともとの『源氏物語』があまり書かなかったお話しを補強しているんだ。「雲隠」の巻も作ってあるし、「夢浮橋」のその後も描いたりしているんだよ。これと同じようなコンセプトのものに『山路の露』ってのもあるよ。
もちろん、これは紫式部とは一切関係がないんだ。だって、いきなり「岡部」なんてヤツが出てくるんだぜ!
「岡部? なんだかえらく普通の名前ですね……」
「普通、そういう名前は『源氏物語』的な世界では出てこないんだよね。そもそも基本的にあの時代の文学作品では、人の名前はわからないんだよ。光源氏っていうのもただのあだ名で、本名は全くの不明なんだ。まぁ、源氏だから源が苗字なんだけどもね」
「じゃあ、そんな名前が出てくる時点で……」
「うん、もうそれは紫式部とは全く関係がないんだ」
おっと、ずいぶん脱線してしまったね。
とにかく、そういうタイトルだけの凝った巻がある以上、『源氏物語』の全巻をノベルゲームにするのは大変だろうな、って思うんだ。
しかも、そのプロジェクトは一巻ごとに作品をリリースしてたはずだから(だったっけ?)、「雲隠」の巻を作ろうとしたら、タイトルだけになっちゃうし、そこに余計な解説を入れちゃったら、なんだか、それは雰囲気を壊してしまうよね。
実は、この原稿を書いているとき、『狭衣物語』のノベルゲームも発見したんだよ。
『狭衣物語』ってのは、一般的な知名度は低いんだけど、昔は「源氏・狭衣」と『源氏物語」と並び称されるような作品だったんだ。
さすがに、『源氏物語』ほどのボリュームがあるわけじゃないんだけど、それなりにこったお話になっていて、なかなかの作品だよ。
これも、ノベルゲーム化にあたって、どんな工夫がされているのか、近いうちにプレイして確かめてみようって思っているんだ。
■そして江戸時代へ
ちょっと王朝時代の話が長くなっちゃったけど、話を戻そう。
とにかく、ゲームなんかで「過去の日本」っていったら、まず江戸時代に準拠したような世界観になっちゃうんだよ。もちろん、今みてきたように王朝風の世界観を持った作品も、ないわけじゃないんだけどもね。
けど、例えば鎌倉時代とか室町時代なんてのもあるじゃないか。
そういう「日本」を描いた作品ってないよねぇ……って思っていたら、一個思い出したぞ……。
実は、フリーのノベルゲームで『一籠の眼』っていう作品があるんだ。
これは舞台こそ現代日本なんだけど、主人公が迷い込んでしまう集落は、室町時代から生活様式を変えていない、一種の秘密の隠れ里なんだよ。
そこには、村を守ると同時に災いももたらすような「ワクラバ」という神様がいて、物語のキーマンになっているんだ。このワクラバのビジュアルはかなり強烈なので、ぜひ、プレイして、見てほしいな。
ところで、気づいたかな?
このワクラバって、おそらく「病葉」のことだよね。『万葉集』以来の詩的な言葉だよ。
つまり、『一籠の眼』は江戸時代にかたよらない、「日本的な雰囲気や言葉」を上手く使った作品、ともいえるんだ。
「なんだ、探せばあるんじゃないですか」
「まぁ、それは否定しないけど、やっぱり室町時代をイメージするような作品って異質だよ。いわゆる伝奇ものでは、『昔の日本』から続く因習なんかが作品の鍵になることが多いんだけど、やっぱりそれは江戸時代のイメージなんだ」
「確かにそれはありますね……。けど、別にいいじゃないですか。江戸時代だって立派な『昔の日本』ですし」
「もちろん、全然いいんだよ。けど、王朝時代、鎌倉、室町、戦国なんて時代が日本にあったことも事実だろ? だけど、日本的な雰囲気や情緒みたいなものが、みんな江戸時代に集約されちゃうってのは、ちょっと寂しいってことなんだ」
「まぁ、わかりますけどもね……」
「だって、外国人の日本へのイメージっていったら、侍、忍者、寿司、天ぷらと、まだまだそんな感じで、それってほとんど江戸時代のものだろ?」
「えー! 本当ですか? いまだにそんなイメージなのかなぁ」
「ちょっと誇張した……。とはいえ、大半の外国人が持っている『昔の日本』のイメージは実はそれと大差ない、ってのも事実なんだ。けど、最近はそういうステレオタイプなイメージも大きく変わってきているんだ。村上春樹の小説や、アニメなどのメディアによってね」
「アニメとか人気らしいですね?! わたしの友達のレベッカも『ふしぎ遊戯』のアニメを観たのがきっかけで日本にきたんですよ!」
「レベッカって誰だよ……。まぁ、そういうライトなとこから入って、最終的には日本の歴史やら伝統やらに興味を持つようになる人が増えてきていている。で、そういう人たちに提示するのが、いつも江戸時代的世界ってのも、ちょっと寂しいし、もう少し深みを感じさせるものがあってもいいんじゃないか、ってことなんだよ」
「なるほど、たしかにそれもそうですね」
「ほら、最初、英語にゲームを移植するなら今がねらい目! って書いただろ? そうしたときに、一味違う日本のよさや、深みのある文化を提示出来たら、それは素晴らしいことだと思うんだ。外国人と同レベルの『昔の日本』しか表現できないのはちょっとな」
■江戸時代は最近? 昔?
と、いろいろ書いてきたんだけど、「江戸時代」というのは、日本的な文化が花開いた時期であるってのも本当なんだよ。
それ以前の時代に、下地が着々と作られて、それが一気に江戸時代に開花したって感じかな。もちろん、変質してしまったものなんかもあるんだけどもね。
それに、江戸時代っていうと比較的、私たちの時代から近いんだ。
王朝時代っていったら、もうそれはとんでもない過去のことなんだけど、江戸時代ならなんか、手が届きそうじゃないか。
つまり、資料が豊かにあるんだよ。
別段調べなくても、知っている、なんてことも多いしね。そういう利便性の面からも江戸時代が人気なんだろうねぇ。
おっと、忘れちゃいけないや。
実は大正時代なんてのも、地味に人気があるんだよ。これは「昔の日本」っていうより、「近現代」ってくくりだと思うけどね。
大正は、『はいからさんが通る』じゃないけど、西洋風の文化が日本になじみ出したころで、独特の雰囲気をもった時代だよね。
ただ、大正時代、あるいは昭和初期なんてのは、ミステリーの作品では見かけることもあるんだけど、そうでないジャンルでは、いまひとつ人気がないみたいだね。
「江戸時代って、現代にそんなに近いですか?」
「まぁ……遠くはないと思うな。だって、150年くらい前はまだ江戸時代なんだぜ?」
「今が平成でしょ? 昭和、大正、明治と間に3つも時代をはさみこんでるんですよー?」
「それはそうなんだけど、たった150年だしなぁ……。俺の祖父なんて明治生まれだし……」
「やっぱり! みんなのいってたことは正しかったんだわ」
「え? なにがだい?」
「いえね、道玄斎さんは大正生まれだって話ですよ! おじいさんが明治生まれならそれもあり得るな、って!」
「…………」
(つづく)
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